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【創作小説】終わり此れ始まり (律儀断)

彼の名を、仮に天鼠としよう。

彼は無力な子供であった頃に、両親を失った。
わずかな金銭を得るために、別な真実を見ている者に、彼の両親はあっけなく命を奪われたのだ。

少年天鼠は、墓前にて、父に、母に、「教えを守り通します」と約束をした。
彼の両親は敬虔なクリスチャンであった。
父も母も、残酷な死に直面して尚、己は無いままであった。
父も母も、残酷な死に直面して只、息子を心配し、己を殺す犯罪者を憂う。
なぜならば、二人の魂は、この世に縛られてはいないからだ。

彼は両親の巨額の財産を相続し、大人になり、投資家となっていた。

彼はビリオネアであったが、ボディーガードを側に置こうとはせず、極めて無防備な生活をしていた。

安い賃貸住宅に住み、朝食はプレッツェルとゆで卵。
昼飯は鶏肉のバターソテーとポテト。

身なりはフォーマルに近付けているが、50ユーロのストレッチパンツに、30ユーロのシャツ。
ボンサックを背負い、近場はシェア電動キックボードで移動している。

そして、数年後。

彼は近道をしようと、路地裏に入った。
そこは、彼の両親が殺害された道。
銃声がして、彼は横に倒れて、苦痛に足を抑え、全身を強張らせている。
二人の男が来て、彼のボンサックをあさる。
金目のものは入っていない。
ポケットをあさる。
50ユーロだけ見つけた。
二人の男は顔を真っ赤にして「たったこれだけか」と逆上し、彼の頭を蹴飛ばし、天鼠の背中に銃弾を撃ち込んだ。

「この者たちをお許しください」

背中から流れ出る鮮血は温い。
意識を失う直前に、そうつぶやいた。

彼、天鼠は病院で目を覚ました。
集中治療室から一般病棟に移動したのを待って、私は彼を訪ねた。
彼は車いすに座っている。

私と目が合った。
「あなたが、病院の費用を肩代わりしてくださったのですか」

「はい。ぶしつけなこととは承知していましたが、承諾をいただくことができませんでしたので。その…意識がなかったから。」

「困りました。私はあなたにお金を返すことができません。」

彼は、ある活動に全財産を投じ、今はわずかなお金しかもっていないのだ。

「問題はありません。すべては、あなたがご支援くださった活動の流れの中にあります。」

天鼠はおおむねを察したようだ。
「私は、特別扱いをされたくて、賛同をしたわけではないです。私はもう、十分に準備が整って居るのです。父と母を失ったあの日、私は二人の姿に道を得ました。巨大な財産を得たが、結局は行くべき道は一つという事態に変わりはなかったのです。流れに身を任せればよい。流れの中にいる自分を見つけるとき、とても納得がいくのです。幸運も、不運もすべては幻です。」

「彼らを訴える気持ちはないのですね。」

「私はすでに終着点におり、彼らは私にそれを伝えに来ただけです。50ユーロと引き換えにね。」
その、自らのセリフに、天鼠ははっとした。
そう、終わっているとするならば。

「天鼠さん。あなたは、あなた方親子に鉛弾を打ち込んだ者たちの地獄が終わるようにと祈った。うわごとで祈りの言葉を発していたと、そう、聞いています。」

「私には、なんの力もないので。」
天鼠はそのあとに続く台詞に感づいて、そう反応した。

私も、気付かれているとわかっていた。
「その力があったら?私がプロジェクトを去った後、律儀断を背負ってはもらえないだろうか。」

「私には、善も悪もありません。したがって、力を必要としておりません。財力とて。」

「天鼠よ、天鼠。あなたに見えている天鼠の道は一つ。しかしながら、我々から見えている天鼠の道は二つ。」

「…」
天鼠の人口無能のように、手ごまを減らしてゆく反応。

「まずは早めの回復を。」
「強制は致しません。」
「なぜならその仕事は、薄汚れていて、あなたの美しい人生に汚点を残す。白き聖人は、漆黒の天鼠となるでしょう。」
「我々はあなたが引き受けてくれなければ、もはやそれまでで十分。あなた以外はありません。お待ちしております。力をお返ししましょう。」

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