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【創作小説】終わり此れ始まり(新大久保太平楽)

渋谷の奪還が目的だった。
治安が悪化し、街の雰囲気も最悪。
平和主義者はまず渋谷には来ない。
渋谷駅は4社が乗り入れるターミナル駅で、日本の拠点を集約するとき、捨てるわけにはいかないノードであった。

治安を悪化させている連中が渋谷に集中して集まる。
これを抑止または排除するよりは、彼らを別な一か所に集めておく方が得策だということは経験的に明白であった。

彼らはなぜ集まるのか?
同類と群れることによる自己肯定
同類以外に対し、数の優位性を示す、劣等感と疎外感の払しょく

今計画のために、dumpsterとして白羽の矢が立ったのが新宿駅からわずか2駅のビジネス街新大久保である。

太平楽というテーマを掲げ、最先端を走る文化の街として開発がすすめられた。
並行して、渋谷を奪還するための開発も進行。

渋谷は基本的に、動く歩道を活用して、地下を徒歩で移動する。
地上は車道が狭められ、バスやタクシーしか乗り入れしない。
自動車で来たものは、幹線道路からの乗り入れ口にある、立体駐車場を利用する。
観光客が気に入る映える風景であった、人ごみの交差点はない。
地上は、写真映えのする風景を一切排除、建物も四角くてつまらない外観のものばかりになっている。
そして、地下は警察官による巡回警備を徹底した。

新大久保は逆に車道を整備し、写真映えのする建造物を増やした。
太平楽の開発方針に従い、クラブや安いアルコールを提供する店を誘致し、渋谷のそういった店を移転させていった。
華やかで、人が集まる街になった。

新大久保を歩くと、駅からそれほど離れていないのに、しょんべんの異臭がする。
以前は渋谷の街に、この悪臭が充満していた。
違法改造車が集まり、酒をあおった者たちが奇声を上げる。
警察は被害届が出たり、犯罪が発生した場合は断固として厳しい対応をするが、予防的にはさして動かない。
犯罪経歴があるもの雇用も、雇用対策として、新大久保で推進した。

渋谷は迷惑行為を働く連中にはやりにくい街となり、新大久保へと活動の拠点を移した。
そして、健全な街であることが評価され、平和主義者は渋谷に戻ってきた。

私は立ち上げからこのプロジェクトに参加し、めどが立ったところで、若くて安価な新人の思考実験屋に引き継いだ。
どうやら彼はうまく仕事をやり遂げたようだ。
おめでとう。
大きなプロジェクトでの成功は彼のキャリアになり、自信にもなるだろう。

来週は久々に渋谷に行こう。
ホテルを一週間予約して、来週は静かになった、清潔な渋谷で仕事をしよう。
きっと、いい仕事ができる。

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