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【創作小説】終わり此れ始まり (奈落迦)

その日、私とオオイカワはどちらが昼飯を奢るかという、きわめて些末な舌戦を遊んでいた。
もう、今秋ずっとランチミーティングだからと、主催者であることを盾にオオイカワが全員の金を出していた。
高い個室を毎日予約してだ。
この料亭が値段を知っているので、どうにもそれがみんなやりにくそうだったので、私が彼に食って掛かる役目を演じてみることにしたのである。
彼は自分が一番だと信じており、他の者は次第にYES‐MANとして、尻に敷かれつつある。
ランチミーティングの件にかかわらず、オオイカワはそういった立ち回りをする男で、感づいた有能なスタッフが、このプロジェクトは行く道に暗雲が垂れ込めている、自分の居場所はないと逃げ支度を始めている。
尚且つ、彼は自分に従わぬならばそれでよいと思っている。
そこを何とかしようと思った。
そこから、あらぬ方向に話が進む。

よおし判った。ヒロ、君と言い合っては俺に勝ち目はない。こうしようじゃないか、君の思考実験を買おう、今までの昼飯代でな。

そうだな、そのあたりで柔らかく手を打とう。
ただし、今後は少し考えよう。

君は私にとってやりにくいな。
思考実験のお題はそうだな、人類が月に移住するようになったらどうなる。

それでよいのかい。

ああ。

少なくとも月面への移住初期、移住の規模が一定以上ならば地球が砂漠化していく。

月への移住により、それが防げるのではないか?

いや、移住規模に見合う有機物を地球から運搬しなければいけない。

整備された月面の土地は高く売れる。新世代の究極の贅沢にして、財力を示す指標だ。したがって、その意見が本当だとして、ステークスホルダーを納得させるのは極めて困難だと思う。
思いとどまらせる手段はあるかな。

君が想定している状況を思いはかる限り、少なくともその状況に限って無いと考える。

困ったね。

私も、願わくば真実に気付いてほしいと思うことはあるが、困ることはないだろう。

興味深いね。それは、なぜかな。

無限地獄において、それは起こるべくして起こる、
欲に惑わされ、
まやかしに踊らされ、
恐怖し、
常に問題が発生し、
答えを知っているものはいない、
なにより、
いつかきっとよくなる、この世は人間は素晴らしいと信じ、死に直面した時でさえ、また戻ってこようと考える。
誰も逃げようとしない、魂の牢獄に閉じ込められて。
実はそのような余裕はないのに、無駄を良しとする。
現実を知るものは激しく拒絶され、まれに無念な最期を迎える。

私は感情の起伏無く、淡々と話した。
思考実験結果の続きとして。

私のような愚か者が、苦しみ続ける。
そういうものだと思う、確かに。
滑稽だ。
地獄は別にあり、ここではないと信じて。
君は、南極から、どこに行くのか?

私が、最底辺のごみである場所だよ。

そこは地獄ではないのか?

そう、ほとんど全ての者がそう思うから、そこに行こうとしない。

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