義務教育プログラムの刷新が行われる。
ヘンリー・フォードが生産ラインの作業員をさして「まだ機械で置き換えられないからだ」と申した。
冷酷で、血の通っていない見解だが、それが営利企業の真意だ。
IBMは過去パーソナルコンピューターも開発していたが、やはり、より利益率の高い分野に移行していった。
それは、先進国の宿命を示している。
より付加価値が高い仕事しか、選択肢になくなっていくのだ。
専門性が増していく現状を鑑みて、例えば明快さゆえのミクロ視点において、IMEが漢字の変換候補を提示する環境向けのライティング学習とはなんであろうか?
それをマクロ化した求められる人材育成と供給がゴールである。
我が国が、先進国でなくなる前にだ。
「やぁヒロ、君のうわさは聞いているよ。」
「良い噂か悪い噂かは聞かないことにするよ。」
「気になるかい?どちらから聞きたい?」
私は苦笑して、手のひらを小さく上に向けた。
実のところ、私についてどういったうわさがあるのか、想像がつく。
「冗談さ。ヒロすまないね。きみが本来進むべき道は明確なのに、我々の為に度々足止めをしている。」
「君は我が国においては希少な性格だ。この国がやりにくく思うことはないのかい?」
彼は肩をすくめた。
「楽しく仕事をしてるよ。最近は陰口の気配がなくってね、あれがないとファイトが沸かない。それがささやかな困りごとさ。」
私は会議室に通され、プロジェクトの説明を聞いた。
我が国国民は平均的に教育レベルが高いが、何十年も賃上げが進まない影響で、相対的に安価な人材となった。
技術的に最上級の人材であるとはお世辞にも言えないが、理解力が高く忠実で細かいところに注意が行き届く、そんな人材をそろえやすい状況になった。
野球選手の活躍で、我が国の気質が上振れし始めた。
我が国は、人材を大々的に海外に売りに出すことを考えた。
かかわって障害はよく言われる3つ。
1.距離
2.言語
3.日本独特の慣習
根本的な解決には時間が必要だが、AIによる実用圏内までのサポートが可能である。
暫定措置として、AIによる島国技術者のための補助輪を用意したわけだ。
その運用シナリオを5分の動画に収めた、それを用いた説明会を本日行う。
Web会議システムやPMツール、ファイル共有システムなどの一連のプラグイン群である。
既存技術のわずかな延長であるため、理解もされやすく、開発費、開発期間もわずかという想定だ。
即時通訳、ファイルの即時翻訳。
それに加え、意訳を行う。
海外クライアントに不快感を与える内容については、意訳し、その差分を発言者である我が国スタッフに通知し、OJTを実施していく。
国内3つの人材紹介会社への人材バンクの提供。
フリーランスの推進支援。
海外出張の支援。
「ヒロ、海外にポンコツは出せん。よって、国内の人員の品質が下がる。」
「我が国に彼らをつなぎとめる財力も、挑戦しがいのある課題もない。今はな、斜陽。日の丸は半分、水平線の下だ。我が国は国内の品質低下を受け入れるべきだ。」
「優秀な人材が売れれば、雛壇次位も続いて売れる。雛壇上位がノウハウを蓄積してくれれば更に売れる。」
「そのノウハウを得て、晩年を迎えた人材を我が国は受け入れる。彼らのいくばくかは余生についても海外を選ぶだろうがな。」
「キミとかな」
「私は、少なくとも精神上は、国境を捨てた」
「有能なシニアが日本を選ぶよう、やってみるよ」
「君のように、ド級という修飾語がつく、我が国に特化した有能人材は、捕まえられて外には出られないけどね」
「嫌われ者でもかい?」
「憎まれっこ世にはばかる。そのもっともよい方の解釈例が君さ」