5年前、私は渋谷奪還での仕事が評価され、その後、きわめてくだらない適性検査を突破、そのプロジェクトに参画することになった。
3年ほどプロジェクトに席を置き、その後4人に後を任せた。
プロジェクトの実現にはざっと100年以上かかり、技術の進歩と環境の変化によって、都度、設計図書は更新される。
私は、セブンイレブンのごみ箱で賞味期限切れのライスボールを集めている白髪の薄汚れた男の肩をたたいた。
やぁ、ジェフ。よかったらうまい照り焼きをおごるよ。
その男は穏やかにほほ笑んだ。
梅干しのライスボールを差し出す。
それよりも、これを一緒に食べないか。
いいね。
ISETANで仕立てた高級スーツの男と、ぼろ着の老人が河川敷のベンチに座り、おにぎりを作っている。
犬の散歩をする若い男。
人懐っこいコーギーがやってくる。
若い男が老人に顔をしかめたので、私が、撮影のエキストラなんだと嘘をついた。
可愛いコーギーですねと言うと若い男は喜び、その顔を見たコーギーは得意そうにこちらに視線を送ってきた。
自信に満ちた視線だ。
私はサーモンのライスボールから飯を一つまみむしって、犬に食べさせた。
老人が犬の頭をなでると、かなりのご機嫌になったようで、なかなかその場を去ろうとしない。
やむないので、若者は犬を抱きかかえて、何度かお辞儀をして去っていった。
ジョギング中の女性がしばらくこちらを見ていたのだが、老人が視線を送ると、さっと目をそらし、腕のホルダーに固定してあるスマートフォンで曲を選択、走り去った。
ジェフ、あなたは権利を行使しないのか?
ふふ、権利を得ているのは君のほうだよ、ヒロ。私は修行のしなおしだ。今の私では、わかるだろ?きっと、耐えられない。
それと、その、気にかけてくれているのはうれしいのだが、私にはもう、会いに来なくてもいいのだよ。
1年は仕事をしない予定でしてね。一人が好きなたちなのですが、人恋しい時、話をして楽しいのはあなたくらいなんです。
それに何より、あなたはたいてい暇にしていて、突然お邪魔することを心苦しく思わなくていい。
老人は米粒をちょっと噴き出して、愉快気に首をかしげた。
ヒロ、暇なのかい?
次の仕事に向けて、体力を戻して、使い果たした知識を補充しているところさ。
それは暇そうだ。
老人はいたずらっぽく微笑んだ、子供のような顔で。
私なんかのところに来る暇がなくなるよう、そうだな、謎を一つ君にあげよう。
来た。そう直感した。
私は緊張を微笑みに下に押し隠し、震えそうになる指を制して、スマートフォンのメモ帳アプリを起動した。
南極に観測基地はいくつあったか?実は、観測目的以外の施設がある。
私はこれを知るために彼のもとに足しげく通った。その結果に至ってはいけない。
私は、メモを削除した。
すべてはなるようになる。
その様子を、ジェフは見ていた。
ヒロ、君は次に旅を終える男だ。
あなたもそうですよ、お気づきになってください。
わたしは、もう少し話をして、その場を去った。
猛暑が続き、公園のベンチに座っているジェフを見つけた。
声をかけるが返事はない。
おお、ジェフ、友よ。
付き合いは一瞬なれど、千年の友よ。
君が君を許せたことを祈る。
縁があったらまた会おう。