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【創作小説】終わり此れ始まり (導入)

南極

私は、人が現世ですべき旅の終着点に来た。

この世について理解する必要がなくなった今、その今を、私は誰に、はたまた何に感謝をすればよろしいか。

ありがたい、ありがたい。
私は二度とこの世に帰ってくることはなく、そして、これが大事なことなのだが、私の新たな旅が始まる。
なので。
おそらくはそのように感じる必要は最早ないのだろうが、まだ私はここに居る。
したがって、ありがたいのです。

2年前、日本、長野県佐久市

レストラン​きく​やでかつ丼を注文。
午後6時、起き抜けの老いた体にカツは重いが、寝ぼけた頭で何も考えられないでいると、とりあえずここに来てしまうし、このかつ丼を頼んでしまう。

還暦を過ぎても仕事をするのが当たり前になったなぁ。
私はその過渡期を知っているので、最終的に取られ損となった年金に怒り心頭だが、フレッシュマンの連中は安い給料でもそこそこやっていけるようになり、まぁまぁの未来が見えている。
結婚しない選択が前提だしな。
日本人は貧乏になったが、金が余っていた時代が異常だった。
金があるときに、既知の問題を解決してくださらなかったので、丁度私の世代が帳尻合わせのため酷い目にあっている。
日本の人口は9千2百万人。
8千6百万人を見据えて、都市インフラの再計画がされ、各地に廃墟が出来上がった。
日本の土地の価格は広い面積にわたって乱降下してしまったが、自然に帰る面積が増えたのを個人的に喜んでいる。
世界にくだらないケンカを売って大負けしたツケをやっと清算できた気がする。
海外からの移住は増えている。
古き良き、安全=0円の日本を愛する方が多く、移住してきた外国人は、日本語こそ片言ではあるが、立ち振る舞いマナーはよっぽど彼らの方が日本人であり、うん。恥ずかしく思う。

私がお世話になっている会社は猛暑対策の夏時間を採用しており、夜7時から早朝2時半までが勤務時間となる。
夏時間を採用するしないで、みなの働く時間がまちまちになり、庶民的には建築工事の騒音などが問題になって、防音サッシの特需が発生したっけな。
電力需要が楽になったりと利点も多かった。

一度は否定されたリモートワークだが、人口が減って拠点間距離が増し、国境をまたぐチームが当たり前となってから、ツールおよびサービスが進化して、完全に復権した。具体的に最も効果があったのは作業を停滞させる障害(Obstacles)の検知機能。AI発展の知識ベースが一元窓口となり、作業手戻りと制度の監視、自己解決に向けての問合せを整理し、障害を取り除くヒーローを募集してアサイン、障害解決の過程を監視記録して知識ベースを教育する。
問題が解決されたなら、知識ベースが強くなるだけでなく、問題を解決したヒーローに有有識者レベル5、ヒーローに救われたスタッフに有識者レベル1の格付けが行われる。
なので今の時代、スキルシートというものを書いたことがない。

世界人口が90億人を超え更に爆発的増加傾向にあったあの時期は、本当にどうなってしまうのだろうかと思った。
人間が肉体に固定してしまっている水と炭素。
その影響を思考実験すればするほど頭を抱えた。
その過程で地球と人類のパワーバランスが判明し、人類が困ることはあっても、地球が困る(地球を擬人化したとして)ことはないと、その結論に直面して、人類の滑稽さに苦笑せざるを得なかった。

ふぅ。
かつ丼、おいしゅうございました。
御馳走さま。

私は思考実験を生業としている。
AIの登場によって、AIに使われるものと、AIを使うもの、技術者の貧富の差がより一層大きくなった。
思考実験は、人間の頭脳にのみ許された、最後の聖域だ。


わずか一つまみの人々によって、永遠に繰り返されてきた解の道。
その導入は、はなはだ簡単ではあるが、これにて終了としたい。

 

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